ALS(筋萎縮性側索硬化症)の確定診断を受け、病状が進行していく中で、今後の生活費や医療・介護費用は大きな心配事となります。
前回の記事では、住宅ローンの免除に繋がる「団体信用生命保険(団信)」について解説しましたが、ご自身で加入している「一般の生命保険(終身保険や定期保険など)」にも、病気と闘うための強力な経済的支援制度が存在します。
それが「高度障害状態」による保険金の生前請求です。
1. 一般の生命保険の「高度障害保険金」とは?
「生命保険=自分が亡くなった後に家族に支払われるもの」というイメージが強いですが、実は多くの生命保険には「高度障害保険金」という仕組みがセットになっています。
これは、約款で定められた「高度障害状態」に該当した場合、死亡保険金と同額の保険金を生前に受け取れる制度です(※受け取った時点で契約は消滅し、死亡保険金は支払われません)。
ALSの進行に伴い、運動機能や嚥下(えんげ)・発声機能が失われ、日常生活で常に介護が必要な状態となった場合、この認定要件を満たす可能性が非常に高くなります。受け取った保険金は、自宅のバリアフリー改修、最新の意思伝達装置の導入、介護サービスの充実など、患者様ご自身の生活の質(QOL)を高めるために活用できます。
2. 認定の基準となる「高度障害状態」とは
保険会社により表現は若干異なりますが、ALSの症状進行において該当しやすいのは以下の状態です。
- 言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの(球麻痺による発声困難や、胃ろう・経鼻経管栄養が必須となった状態など)
- 両上肢、両下肢の用を全く永久に失ったもの(両上肢の麻痺など)
- 中枢神経系や精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの(呼吸器の装着や、全般的な日常生活動作における全面介助が必要な状態など)
3. 【重要】診断書は「住宅ローン(団信)」のものを流用できる可能性がある!
ここで、ALS患者様とそのご家族にぜひ知っておいていただきたい重要な事実があります。
それは、一般の生命保険会社へ高度障害保険金を請求するための診断書の評価内容が、住宅ローンの免除に使う団体信用生命保険(団信)の高度障害診断書と『ほぼ同じ内容』であるということです。
どちらも「四肢の麻痺の程度」「言語・そしゃく機能の状態」「日常生活における要介護度」などを客観的に評価する項目で構成されています。
診断書代の節約と、主治医の手間を省く「賢い請求手順」
通常、保険金を請求する際は「保険会社が指定する専用フォーマット(指定用紙)」を取り寄せ、主治医に記入してもらう必要があります。しかし、診断書の作成費用は1通あたり数千円〜1万円程度かかり、複数の保険会社にそれぞれ書いてもらうと大きな出費になります。また、主治医にとっても、同じような内容の診断書を何枚も手書きするのは大変な負担です。
そこで、以下の手順を強くおすすめします。
- 「団信」の診断書をベースにする
住宅ローンの一括返済(団信)の請求を同時に行う場合、まずは団信用の高度障害診断書を主治医に作成してもらいます。
- 一般の生命保険会社へ「流用の相談」をする
加入している一般の生命保険会社に連絡し、以下のように相談してください。
「高度障害保険金の請求をしたいのですが、住宅ローンの団体信用生命保険(団信)用に作成した高度障害診断書のコピーを流用することは可能ですか? そちらの専用フォーマット(指定用紙)でなくても受け付けてもらえますか?」
- 認められれば、コピーの提出で完了
多くの生命保険会社では、団信など他の金融機関向けに作成された「高度障害診断書」であっても、必要な医学的評価項目(麻痺の程度や介護状態など)が網羅されていれば、コピーの提出で専用フォーマットの代わりとして認めてくれるケースがあります。
4. 請求に向けて今からできるアクション
- 加入中の保険証券を確認する: どのような生命保険に加入しているか、高度障害特約が含まれているかを確認しましょう。
- 各保険会社に事前確認をする: いざ症状が進行した時にスムーズに動けるよう、今のうちに保険会社のコールセンターへ連絡し、「団信の診断書が流用可能か」という条件を確認しておきましょう。
- 主治医やMSW(医療ソーシャルワーカー)と共有する: 請求手続きを進める際は、主治医や病院の相談窓口に「住宅ローンの団信と、一般の生命保険の請求を同時に進めたい」と伝え、書類作成の負担が減るようスケジュールを調整しましょう。
制度を知り、賢く手続きを進めることで、経済的・心理的な負担を少しでも和らげることができます。ぜひご家族で保険証券を確認してみてください。


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